だれかに相談するということ ―2―
スティグマが邪魔をするとき
困った時や悩んで動けなくなった時、誰かに相談するかどうか、誰かに助けを求めるかどうかは、本人の意思によるものです。しかし、苦しみや、気持ちの混乱が長く続くと、時に深刻な心身の問題につながることもあります。できることなら早めに遠慮せず、信頼できる人にご相談いただければと思います。“苦しいときや困ったとき、誰かに相談する”という行動を自ら選択するためには「相談することが自分にとって利益になる」と実感できることも重要だと思います。もし「相談すると、何らかの不利益を被(こうむ)るかもしれない」と考えてしまったら、誰にも相談できなくなってしまうのではないでしょうか。
では、「相談すると不利益を被(こうむ)る」という考えは、どうして生じるのでしょう。
ここで問題となるのがスティグマ(stigma)です。
スティグマとは、特定の人や集団に対する間違った認識や、根拠のないネガティブな意味づけのことです。アメリカの社会学者ゴッフマン(Goffman, E)は、スティグマについて「それをもっていると否定的な意味で『普通(正常)ではない』と見なされてしまう、もしくは見なされてしまう可能性のある“しるし”である」と説明しています。そしてスティグマという言葉は、日本語の「差別」や「偏見」などに対応しています。
スティグマにはいくつか種類があり、その中の『セルフスティグマ』と『パブリックスティグマ』が「相談すると不利益を被(こうむ)る」という考えにつながりやすいのではないかと思います。
『セルフスティグマ』は、自分自身に対して抱くスティグマのこと、そして『パブリックスティグマ』は、社会の中で広く一般の人が抱いている(と思われる)スティグマのことです。
例えば、「自分の悩みを自分で解決できないダメ人間だと、自分自身で思いたくない。だから人には相談しない」「自分はメンタルヘルス不調だから、価値のない人間だ」などと考え恐れることが『セルフスティグマ』に当たります。
そして、「精神疾患になるのは心が弱い人だ」という誤った理解や、「精神疾患をもった人を雇わない」という差別的な行動などが『パブリックスティグマ』として挙げられます。
これらのスティグマが自分自身にどう影響しているか、と考えてみることも時には必要です。
多くの人は「スティグマなんて、自分には関係ない」「自分は差別や偏見の目で人を見たりしない」と思っているかもしれません。しかし実際には、誰でも大なり小なり偏見や思い込みをもっているものです。
特に、「人に助けを求めるのは苦手だ」という方、また「人に簡単に助けを求めている人を見ると、何故かモヤモヤする」という方は、その苦手意識やモヤモヤ感がどこからやってきているのか、という視点で自分を振り返ってみることも大切かもしれません。
「そうはいっても、自分一人で考えるのは何だか不安だな」と思う時は、私たちと一緒に考えてみませんか。
カウンセリングは、そういう役割も担っているのですから。
参考文献:「スティグマの社会学―烙印を押されたアイデンティティ」アーヴィング ゴッフマン著
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域精神保健・法制度研究部ホームページ
2023年09月01日 23:13